目的地の県道177号と今いる古峰ヶ原街道とは、ふたすじの山を隔てて並行に敷かれている。一の鳥居からかなり下ったところで一つ目の山筋を越えるポイントがあり、そこまでは延々と下り続ける。
景色が流れ去り、せっかくの山の空気感を味わうことが出来ない下りはバイクや車に乗っているのと変わらず、あまり好きでない。自然を全身で感じながら走ることのできる自転車という乗り物の良さが下り坂では半減以下になる。下りはご褒美なんて言う自転車乗りがいるが、まったくそう思わない・・・などと思いながら下り続け、山越えの県道280号に入った。
栃木の道は立派だ。なぜこんなに所にこんな立派な道があるのかといつも不思議に思うが、この280号の入り口も綺麗に舗装され、山に向かって伸びていた。栃木の山間の交通量少ないエリアで見かける高規格な道路を走っていると大抵ゴルフ場があるので、何か関係があるのかもしれない。
そしてこの280号を登っていくと果たしてゴルフコースが見えてきた。時間的なものなのか時期的なものなのかプレイヤーは見当たらず整備車両だけが動いていた。人気のないクラブハウスを横目に通り過ぎるとほどなく240号に合流した。
240号をこのままずっと北上すると現在不通となっている林道横根線と接続し、前日光線に出ることができる。横根線との接続ポイント近くにはうえ田と言う美味しい蕎麦屋があり、Oちゃんとは177号を逆方向から走った時に食べに行った。今日はそこまで北上せず、177号に入る。
177号の始めはなかなかにキツくて長い山道だが、家屋が点在し、人の暮らしがある。雰囲気が変わってくるのは峠を越えた辺りからで、ぱったりと家屋が見当たらなくなる。道脇の草がぼうぼうに生えたままになっていたり、朽ち果てた旧道の路盤が放置されていたり、草に埋もれたガードレールが山上の方に続いているのが見えたりと、異様さが尋常でなくなる。

気のせいか、前回Oちゃんと走った1年前よりも荒廃が進んでいるように見えた。それは今回がソロだからかもしれないし、日の陰り具合のせいかもしれない。時折道端に現れる南摩川のか細い流れだけが生を感じさせた。その清流も数年後にはダムに消えて無くなる。

進むに連れて、道の付け替え工事現場が現れるようになり、山の上の方にガードレールが水平に這うようになると、いよいよダム建設が本格的に始まっているのだと感じるようになる。前回走った時はまだ南摩地区の入口あたりで177号の付け替え工事を行なっているくらいで、本体工事は気配もなかった。

頻繁にダンプとすれ違うようになり、いよいよ遠くにダム本体の建設現場が見え始めた。それは生まれて初めて見る光景だった。かつて緑に覆われていた山が切り崩されて土を顕にし、いずれダムの堰堤になるであろう高い位置にコンクリートの礎が打たれ、底になるであろう低い位置でダンプが土煙を上げていた。

ここで177号はダム底の工事現場に突っこむ本線と、山の上に向かう急斜の登坂路に分かれている。どちらも先は見えない。本線はすでに関係者以外立ち入り禁止の立て看があり、進むことはできない。行くならば登坂路の方だ。
「まじか、引き返すしかないか」
そう思わせるような急斜だった。どう見ても工事用車両がいずれ出来る堰堤の向こう側に渡るために作られた仮設道路だった。携帯の電波も入らず、この仮設道路がどこまで登っていて、どのように山を巻いて工事現場の向こうへ出られるのかも分からない。
しかし、これこそが山奥の林道や未踏の地を走る醍醐味なのだ。見知らぬものに出くわし、ヤバいと思いつつも歩を進める。進んで後悔するようなことは今まで一度も、本当に一度も無かった。デポ地から遠く離れた山奥でタイヤをバーストさせた時ですら、後悔はしていなかった。
登ろう。未踏の山を。二度と登ることの出来なくなる坂を。

左手に仮設道路が伸びる

付け替えられた177号に接続する
上部からの作業風景
